これを食べれば認知症予防?

相変わらず「これを食べれば認知症予防」的な話題が跡を絶ちませんので、まとめてご紹介いたします。この内容は拙著「ならない認知症と増やさない社会」の第6章からまるごと抜粋しております。本書のご購入はこちらからどうぞ。一年前には生きていたLINK(出典)が半分以上無くなっていますが、ご容赦ください。


赤ワイン(ポリフェノール)

 ポリフェノールが認知症予防に有効だと示唆されています。ポリフェノールは赤ワインや緑茶に多く含まれる抗酸化作用をもつ物質です。ヒトが生きていくためには酸素と糖が必須です。エネルギーの源であるATPは、ミトコンドリアという「エネルギー産生工場」で酸素を使って糖を分解することによってつくられます。その過程で一部の酸素は、化学変化を起こし活性酸素というものを発生させます。活性酸素は体内に侵入してきた細菌などを排除する作用も持っていますが、過剰に活性酸素が発生した場合が問題となります。過剰に発生した活性酸素は、細胞を殺す(アポトーシス)作用があり、老化を招きます。また、活性酸素は動脈硬化などを引き起こし生活習慣病の原因となります。添加物が含まれた食品、喫煙、大気汚染、紫外線、ストレスなどは、活性酸素を発生しやすいものとされています。車に例えると、ミトコンドリアは車の「エンジン」、活性酸素は「エンジンのサビ」、抗酸化物質は「エンジンのサビ落とし」と考えて下さい。つまり、「エンジンのサビ落とし」をすることによって車はスムーズに動くようになるということです。
 フランス南西部で行われた大規模疫学研究において、毎日250ml以上赤ワイン飲む人はアルツハイマー病・認知症の発症リスクを下げるという結果が出ています。しかし、ぶどうジュースにはその効果がないといわれています。その理由は、ポリフェノールは皮と種に多く含まれておりジュースの場合はこれらが製造過程で取り除かれてしまうことです。腸でのポリフェノールの吸収はアルコールによって促進されますが、ぶどうジュースにはこの作用がないこともその理由の一つです。
 緑茶に含まれるポリフェノールの効果はどうでしょうか?緑茶を一日に2杯以上飲む人は、週3杯以下の群に比べて、認知機能低下のリスクがほぼ半減するという結果が報告されています(詳細は後述)。
 ポリフェノール以外に、ビタミンC、ビタミンE、βカロチン、カテキン、イソフラボン、リコピン、セサミンにも抗酸化作用があるといわれています。また、詳細は不明ですが、「イチョウの葉エキス」も抗酸化作用をもっているかもしれません。しかし、このような物質がアルツハイマー病・認知症の発症リスクを下げているという実証はありません。


オリーブオイル(ポリフェノール)

 ルイジアナ大学のAmal Kaddoumi氏は、エキストラバージンオリーブオイルがアルツハイマー予防に効果があると発表しました。
 Kaddoumi氏は、世界で三千万人の認知症者がいるがその有病率は地中海地域では低い、一方で、この地域では以前からオリーブオイルの消費量が多いことから、そこに因果関係があるのではないかと調査を進めたそうです。
 実験の結果、脳内のアミロイドβを除去する機能をオリーブオイルに含まれるオレイン酸が有していることを発見しました。
 オリーブオイルに含まれるオレイン酸がアルツハイマー病患者の脳内に蓄積される物質「アミロイドβ」の量を減らすことが分かったのです。ご存知の通り、アルツハイマー病は、脳のアミロイドβおよびタンパク質の蓄積が特徴とされています。
 Kaddoumi氏のチームは、オレオカンタール(oleocanthal)と呼ばれる物質に着目して、ネズミの脳細胞のアミロイドβの量を減らすかどうかの実験を行いました。その結果、オレオカンタールはアミロイドβを除去するのに必要なタンパク質や酵素の生成を増加することが判明したのです。
 オレオカンタールはエクストラ・ヴァージン・オリーブ・オイルから抽出された天然有機化合物で、エクストラ・ヴァージン・オリーブ・オイルのかすかにピリリと刺激のある味の原因物質です。抗酸化ポリフェノール類が豊富に含まれているエクストラ・ヴァージン・オリーブ・オイルは野菜サラダにかければ、抗酸化物質も含まれた健康食になります。

 Kaddoumi氏の報告書には、オレオカンタールを有するエクストラ・ヴァージン・オリーブ・オイルを摂取すれば、認知症リスクを軽減する可能性がある、と結論づけています。


ココア・フラバノール(ポリフェノール)

 イタリアのラクイラ大学のDesideri博士のチームは、フラバノールを多く含むココアを飲んでいる軽度認知障害の患者では、言語などの認知機能が改善したと、2012年8月14日付の米医学誌「Hypertension誌」(電子版)に発表しました。

 Desideri博士は、フラバノールの摂取は軽度認知障害を有する被験者の認知機能を改善するかもしれないという仮説を検証しました。博士らは、心疾患の無い健康な90人の軽度認知障害の高齢者(平均年齢71歳)を対象に8週間にわたり毎日ココア・フラバノール(フラボノイドの一種)飲料を飲んでもらいました。
 その間の食事では、試験用ココア飲料以外の飲食物からフラバノールを摂取しないように制限し、高摂取グループは毎日990mg、中程度摂取グループは520mg、低摂取グループでは45mgの量を摂取してもらったのです。
 その結果は、ミニメンタルステート検査(MMSE)では3グループとも優位の差は認められませんでしたが、トレイルメイキングテスト(TMT)では、高摂取グループと中程度摂取グループは低摂取グループより有意に改善し、言語流暢テストでは高摂取グループが低摂取グループより有意に改善しました。
 また、インスリン抵抗性、血圧、脂質過酸化については高摂取グループと中程度摂取グループで低下が認められました。
 これらの結果から、Desideri博士は次のように述べています。
「認知機能の改善はココアに含まれるフラバノールの直接作用によるのか、心臓血管系の全般的改善による2次的効果なのか今回の試験ではっきりしません。軽度認知障害の進行をフラバノールが止めるか遅らせる役割についてはさらに研究が必要です。大規模研究を行うことによってココアのフラバノールの摂取する量と摂取する期間を明らかにする必要があります」
 別の専門家らは、今回の一回だけの試験の結果から毎日ココアを摂るべきだと考えるないように注意しています。
 フラボノイドの一種・フラバノールは、ココア製品、緑茶、紅茶、赤ワイン、ぶどう、リンゴなどに含まれる物質です。

 フラボノイドには抗酸化作用があり、赤ワインは認知症予防に有効との報告もあります。ポリフェノール自身は健康に資する物質と言えそうですが、注意すべきは接種方法、赤ワインはアルコールですから飲み過ぎに注意を、ココアはそのままでは苦い食品ですので、砂糖の加え過ぎに気をつけなければなりません。


クルクミン(ポリフェノール)

 数年前にクルクミンが認知症改善に有効な成分として話題になりました。カレーに使われるスパイスのターメリック(ウコン)の主成分がクルクミンで、カレーを多く食べているインドでは、七十歳代のアルツハイマー型認知症患者数が米国に比べ1/4程度に低いことからクルクミンが着目され、研究が始まったそうです。
 富山大学 和漢医薬学総合研究所 民族薬物研究センター  薬効解析部助手(当時)東田千尋氏(現在は准教授)は、2002年にマウスを使った動物実験で、アミロイドβを海馬に注入されたマウスをクルクミン入りの餌を与えた群と与えなかった群に分け、水迷路試験を行った。すると、クルクミン餌投与群はクルクミン餌を投与されなかった群に比べて優位で、正常なマウス群とも同程度の成績を保持したそうだ。東田氏はクルクミンがアルツハイマー型認知症を予防すると報告された。
 2007年には、金沢大学大学院医学系研究科神経内科教授の山田正仁氏と小野賢二郎医師らの研究でクルクミンの認知症改善効果を発表された。そこでは、クルクミンを加えたことで、アミロイドβタンパクの凝集・線維化が、大幅に抑制され。その抑制効果は、クルクミンの濃度が高いほど顕著に認められた。また、すでに線維化したアミロイドβタンパクにクルクミンを加えることで線維が分解(不安定化)され、その効力もクルクミンの濃度に依存していた、そうだ。この効果は赤ワインに含まれるポリフェノールでも同様に確認できたらしい。
 一般にポリフェノールは消化管からの吸収が悪く、代謝も早い物質です。つまり有効成分であっても、経口摂取では生体内利用率が低く、そのままでは脳までなかなか届かないのです。ところがクルクミンは黒コショウ成分のピペリンと同時に摂取すると、腸管膜での代謝吸収の改善が見られ、生体内利用率が大幅に上昇します。更に、クルクミンは油に溶けやすいため、油と一緒に摂ると吸収が良くなります。
 市販のカレーの多くにはターメリックに加えて黒コショウ(ピペリン)も入っているので、クルクミンはカレーを食べる事で吸収率は高まると思われます。
 カレーを食べれば認知症が治るとか、食べていれば認知症予防になる、とまでの断定はできませんが、クルクミンがアミロイドβを分解することが証明されています。どれくらい食べれば改善に、あるいは予防に効果があるのかもわかりませんが、カレー好きな方には良い知らせですね。私もカレーは大好きです、今まで以上に食べるようにしたいと思います。


テアニン、カテキン(ポリフェノール)

 お茶の飲み物で知られる株式会社伊藤園の中央研究所は、静岡県立大学薬学部の山田浩教授と社会福祉法人白十字会・白十字ホームの田熊規方医師との共同研究で、認知機能が低下気味の高齢者において、緑茶抹の摂取により認知機能が改善される可能性を、人を対象とした臨床試験で確認したそうです。(同社ホームページより、以下抜粋)
▼研究内容
 本人または家族から文書同意を得られた老人ホーム入居中の方で、認知機能検査(*ミニメンタルステート検査)の点数が27点以下の高齢者(平均年齢88歳、男性2名、女性10名)に対して、緑茶抹を一日2g(総カテキン量 約227mg)、3ヶ月間摂取していただきました。緑茶抹の摂取を開始する前と、3ヶ月摂取後に、認知機能検査を行い、血圧、血清脂質、耐糖能異常などの動脈硬化指標、および血中カテキン濃度を測定しました。
*ミニメンタルステート検査:認知症のスクリーニングに用いられる検査。30点満点で、23点以下であると認知症が疑われ、24~27点では軽度認知機能障害の可能性がある。
▼結果
 3ヶ月間、緑茶抹を摂取していただいた12名の内訳は、血管性認知症8名、アルツハイマー病3名、レビー小体型認知症1名で、認知機能検査(ミニメンタルステート検査)の点数の平均値±標準偏差(範囲)は、15.3±7.7点(5点~27点)でした。
 3ヶ月間摂取後に同じ検査を実施すると、点数は17.0±8.2点と有意に(p=0.025)増加し、12名中8名の方で改善が見られました。この傾向は、検査の点数が10点以下、11~23点、24~27点のいずれのグループでも認められました。さらに検査のうち、近時記憶を評価する項目で、特に顕著な改善が見られました(p=0.012)。
 ほかの評価項目では、血清中性脂肪の値が有意に低下しました(摂取前124±80mg/DL、摂取後103±57mg/DL、p=0.041)。緑茶抹摂取率は99.7%と良好であり、摂取後の血中カテキン濃度は有意に上昇しました(p<0.001)
 以上の結果は、近時記憶の低下が認知症の初期症状であるため、緑茶抹の摂取が認知症の進行を抑制する可能性を示唆していると思われます。今後、より長期間の対照群を用いた試験を行い、このような可能性を検証したいと思います。
 テアニンは、茶に多量に含まれるアミノ酸の一種でグルタミン酸の誘導体。カテキン  はフラボノイドの一種で、その誘導体となる一連のポリフェノールも含みます。日本人の場合はワインからポリフェノールを摂るよりも緑茶から摂取するほうが、古くから身体が馴染んでいる事からも、いいと思います。


イチョウ葉(ポリフェノール)

 以前、イチョウ葉エキスが認知症予防、改善に効果があると騒がれた事があります。イチョウの葉エキスの主要成分はフラボノイドといい、植物に含まれる色素成分の総称のことです。主に血流を改善する効果があるとされ、脳卒中や心筋梗塞、脳梗塞に有効で、脳の血行が良くなるため認知症にも効果があるとされていました。
 ところが、2008年11月にJAMA誌に掲載された報告はその期待に冷水を浴びせました。米Pittsburgh大学のSteven T. DeKosky氏らが行った無作為化二重盲検試験の結果、イチョウ葉抽出物を長期にわたって服用しても、認知症全般やアルツハイマー病の発生率に影響は見られないことが示されたのです。
 米国内の大学病院5カ所で、1545人(平均年齢79.1歳)にイチョウ葉抽出物120mg一日2回を、1524人(同79.1歳)に偽薬を無作為に与えました。用いられたイチョウ葉製品は、米国で一般に使用されている独Schwabe Pharmaceuticals社のEGb 761で、用量は一般に使用されている中では最も高用量の240mg/日です。
 その結果、追跡期間中に523人が認知症と診断されましたが、偽薬群では246人(16.1%)、イチョウ葉群では277人(17.9%)だったのです。認知症患者の92%はアルツハイマー病(疑い例または可能性例、もしくは脳血管疾患を伴うアルツハイマー病)に分類されました。
 軽度認知障害のあったグループのみを対象に分析しても、両群間の発生率に有意差は認められませんでした。これは、イチョウ葉抽出物が軽度認知障害から認知症への進行にも影響を与えないことを意味しています。


アントシアニン

 植物界に広く存在する青紫色素。フラボノイドの一種で、抗酸化物質として知られています。
 ブルーベリーなどに多く含まれているアントシアニンが目に良いと言われていますが、健康な大学生をアントシアニン入りの食品を摂取した群とアントシアニンの無い食品を摂取した群に分け、運動後の反射神経を比較した実験がありました。
 パネルに120個のライトを点灯させ、両手を使って素早く押していきます。120個のライトを押し終わるまでの時間をはかることで反射神経を測定した結果、アントシアニン入りの食品を食べた群では、スポーツビジョン「眼と手の協応動作」が保たれ、運動後も反射神経が維持されたそうです。
 高い抗酸化作用という意味では、ポリフェノールと同様に健康に資する可能性はありますが、認知機能改善に有効という実証はありません。


シナモン

 シナモンスティック、シナモントーストなどで口にする事があるシナモンに認知症の予防効果があるかもしれません。カリフォルニア大学サンタバーバラ校の研究者・ロシニ氏とドナルド氏らは、シナモンにあるシンナムアルデヒドとエピカテキンという2つの成分がアルツハイマー病の治療に役立つ可能性があると発表したのです。
 アルツハイマー病の原因と言われているタウ蛋白は、一般的に年をとればとるほどフィラメントがもつれやすくなり、アルツハイマー病の患者はその進行が早く、もつれるフィラメントの量も多いのです。しかし、シナモンの甘い香りのもとであるシンナムアルデヒドに、このタウ蛋白の蓄積を防ぐ効果があることが証明されたのです。このシンナムアルデヒドを摂取すれば、タウ蛋白質を酸化から守り、凝固を防ぐことが可能だということです。
 また、エピカテキンは強力な抗酸化物質であることが分かっています。エピカテキンはシナモンの他にブルーベリーやチョコレート、赤ワインにも含まれます。酸化を抑制するだけでなく、シンナムアルデヒドと同様にタウ蛋白の重合を防ぐ作用があるようです。


紫人参にアセチルコリンエステラーゼ活性阻害作用を確認 /カゴメ株式会社

 2008年11月にトマトジュースなどで有名な日本の企業カゴメ株式会社が標記の研究発表をおこなった。以下はホームページに紹介されている発表内容です。
 紫人参に、アルツハイマー型認知症の治療薬と同様のアセチルコリンエステラーゼ活性阻害作用が確認されました。この作用をもたらす物質が何かはまだ不明ですが、紫人参にはアントシアニンという紫色の色素が含まれていることから、アントシアニンによるものではないかと考えられます。紫人参を摂取することで、アルツハイマー型認知症での脳機能の維持、症状の進行抑制が期待できます。 
(中略)
 紫人参の添加により、アセチルコリンエステラーゼ活性は有意に減少し、活性阻害作用を確認いたしました。また、添加する紫人参の量を増やしたところ、アセチルコリンエステラーゼ活性阻害作用が強くなる傾向が確認されました。 
よって、紫人参はシナプス間隙(かんげき)でのアセチルコリンによる情報伝達を促進することによって、アルツハイマー型認知症での神経伝達を促進する可能性が示されました。今後は作用物質を明らかにすると共に、メカニズムの解明に取り組んでいく予定です。

 この記述を見る限り、既存認知症治療薬アリセプト同様の働き(アセチルコリンエステラーゼ活性阻害作用)があるので、「アルツハイマー型認知症での脳機能の維持、症状の進行抑制が期待できます」とのことです。
 今後の研究成果を待ちたいところですが、「アルツハイマー型認知症での脳機能の維持、症状の進行抑制が期待」だけでは認知症者とその家族の苦しみを取り除くには力不足と思えます。


ビタミンB1、ビタミンB12、葉酸

 2009年9月オックスフォード大学のDavid Smith教授はビタミンB群の栄養素が軽度記憶障害の進行を抑える効果があると発表しました。
 血漿中や細胞内のホモシステイン濃度は、加齢と共に上昇し、ホモシステインは生成されやすくなります。また、葉酸が欠乏すると、ホモシステインが増加し、血管内で活性酸素を産生させ、動脈硬化を促進させます。ホモシステインは、NO(一酸化炭素)の産生を抑制したり、血小板凝集を促進し、血栓形成を促進させる性質を持つため、血液中で増加するとアルツハイマー病発症リスクが高まります。
 増加したホモシステインを分解するためには、葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12が有効である事が知られていました。
 Smith教授は70歳以上の168人の被験者を、葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12を服用する群とプラセボの群とに分け、2年間脳萎縮率をMRIスキャンで測定しました。その結果、プラセボの群の脳の平均萎縮率は1.08%でしたが、ビタミンを飲んだ群は0.76%でした。
 Smith教授は、ビタミンB群の栄養素摂取が軽度認知障害を防ぎ、脳の萎縮を遅らせる可能性がある。しかし、更なる臨床試験が必要だと報告されています。
 実は、アルコールが分解してエネルギーに変わる際にビタミンB1を大量に消費します。一方、アルコールはビタミンB1の吸収を抑制しますから、毎日アルコールに依存している人はビタミンB1欠乏に陥らざるを得ないのです。
 アルコール依存者でなくても、高齢者、特に一人暮らしの高齢者はビタミン不足からホモシステイン値上昇→軽度認知障害へ進行する危険性は大だと考えられます。なぜならばビタミンB1は牛肉、豚肉、ハム、豆類、木の実などに多く含まれています。こういった食べ物を十分に食べていればビタミンB1が不足することはありません。ところが、高齢者は食欲が衰えて、肉食の量が減りがちです。それでも若い世帯と同居していれば、肉食もありますが、一人暮らしや高齢者の二人暮らしだと面倒くさくて炊事をしなくなり、総菜で簡単に済ませてしまいがちです。認知症に限らず、健康はバランスのとれた食事が基本です。自炊が困難な高齢者には、配食サービスの利用などを勧めてバランスの良い食生活を保てるように指導する必要があります。

抑肝散

 セロトニンは必須アミノ酸のトリプトファンから産生される神経伝達物質です。睡眠、体温調節をおこない、刺激を求めるドーパミンやノルアドレナリンとのバランスを保ち精神を安定させます。
 健常男性は女性より約52%脳内セロトニンを産生する能力が高いらしく、またセロトニンの前駆物質であるトリプトファンが欠乏すると、女性では脳内セロトニン合成が男性の4倍減少するとも言われています。つまり、男性よりもセロトニンが少ない女性はドーパミンやノルアドレナリンが多く出やすいようです。
 GAVAはアミノ酸の一種で、脳内で神経伝達物質として働きます。心を落ち着かせる働きをしますが、GAVAが少なくなるとドーパミンが多く分泌され、イライラしたりパニックを起こしたりしてしまいます。BPSD(認知症の周辺症状)を起こす人の脳ではGAVAが少ないことが知られています。 
 脳内ではこの興奮系と抑制系の神経伝達物質がバランスを保ち、感情やパフォーマンスをコントロールしているのです。
 BPSD対処で投薬される漢方薬の抑肝散は、セロトニンとGABAに働きかけて、興奮や不安を和らげます。実はこのGABAという成分は野菜や果実にも含まれていて、トマト、ジャガイモ、ナス、かぼちゃ、みかん、ブドウ、柚子、ネーブル、いよかん等に多く含まれています。
 男女共に落ち着いた穏やかな暮らしをおくるために、食品からGABAを摂取してみてはいかがでしょうか。

L-カルニチン

 東京都老人総合研究所(現、地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター)の脳機能改善研究グループの田中康一氏は、肉や魚に多く含まれるカルニチンが認知症を予防する可能性について研究されていました。
 カルニチンとは、私達の身体では主に肝臓や腎臓で作られていて、体内で脂肪をエネルギーに代えるための重要な働きをしています。田中氏によると、カルニチンの仲間のアセチルカルニチンは神経細胞が合成するアセチルコリンの材料になると考えられ、培養神経細胞を使った実験では、アルツハイマー病の原因と考えられているアミロイドβタンパク質により細胞死をアセチルカルニチンが抑制するという結果が得られた事から、神経細胞の生存維持にカルニチンが有効であると推定されました。しかし、実際にアルツハイマー病の患者に試験的な投与を行ってみると、その効果はまちまちで、安定した成果は得られなかったそうです。


ニコチアナミン

 2011年に弘前大学農学生命科学部の高田晃氏から、カボチャに含まれるニコチアナミンがアルツハイマー病を改善する可能性について報告がありました。
 まず、マウスを使った実験でニコチアナミンを多く経口摂取させた群と少量摂取群と無摂取群に分け、モーリス水迷路試験を行った結果、実験2日目には多量摂取群の長期記憶保持増強効果が明らかに高まったそうです。(マウスのゴールまでの到達時間が無摂取群が44秒に対し多量摂取群は7.5秒の結果でした)
 ニコチアナミンという物質は、ACE(脳関門透過型アンジオテンシン1変換酵素)阻害剤で、アルツハイマー型認知症の発症を有意に低下させることが報告されています。また、カボチャ、大豆、ナス、トマトなど食経験豊富な食材に多く含まれていて、安全性が高いことが予想できる上、熱安定性が高く、加熱調理による分解もないそうです。



アスタキサンチン

 ニンジンやカボチャなど緑黄色野菜の色素成分βカロテン、トマトやスイカの赤い色素のリコピン、これらの天然色素には強い抗酸化作用がありますが、アスタキサンチンはこれらよりも高い抗酸化力を持つと言われています。
 青魚に多く含まれる EPAやDHAに対し、アスタキサンチンは、さけや表皮の赤い魚、えび、かになどの魚介類甲殻類に含まれる赤い色素です。
 高い抗酸化作用という意味では、ポリフェノールと同様に健康に資する可能性はありますが、認知機能改善に有効という実証はありません。

とめ

 この章では数多くの食品について認知症予防もしくは改善の可能性について見てきました。もともと自然界には私達人間の健康に資する物質は多数存在しています。私達自身が自然の物を食べて生きる自然界の一部ですから、敢えて言うまでもない事ですね。
 薬草の利用は世界各地で見られます。中国では食事を通して身体の調子を整える智慧を残しています。主に中国、朝鮮半島経由で知恵を輸入して来た日本列島では、インドやアジアの動植物も食品あるいは薬品として使用されてきました。多くは漢方薬と呼ばれ、高価ゆえ高貴な人々しか利用することができなかったのですが、一方で庶民は地元の海山の産物を食べる事で健康を維持し、命長らえてきました。
 発酵、醸造技術もはるか昔から世界各地で生まれ、栄養価と味が多様となり、保存食が生まれ、酒を楽しめるようになりました。やがてこの加工技術が生み出す食品は人々の健康を向上させるものだと知るところとなり、私達の祖先の寿命も少しずつ伸びた事でしょう。
 この章で上げた様々な食品や成分は、私達が日常生活で摂取可能な物ばかりです。つまり、普段からバランス良く食事をすれば程よく健康な暮らしができるのですが、本章のテーマ「認知症予防」にフォーカスすると、そう簡単ではありません。それぞれの成分の有効性が実験で認められても、それはあくまで実験の場と言う限定的な環境での成果です。ましてや食品として摂取する際の有効な量、有効な食し方、食べ合わせを考慮に入れないと、有効性は現実のものとはならないのです。
 それぞれが身体に良い物質であっても、脳に、それも認知機能を改善するかどうかは慎重に鑑定しなければなりません。それが仮に良いとしても、有効であるために最低限必要な摂取量と実際に摂取可能な量のバランスを見極める事は大変重要です。つまり有効な成分であっても、毎日食べきれないほどの食材を必要とするのならば、それは現実的な選択肢とは言えません。このことは、たとえ有効成分であっても必要最低限の摂取量に届かない摂取は、お金を払って毎日続けても、有為な改善効果をもたらさない、という事を意味します。もちろん、身体に悪い訳ではありません。しかし、気休めにしかならないのでは、残念なことですね。
 料理にオリーブオイルを多用し、赤ワインを毎日飲む暮らしを何代も前の祖先から続けている地中海地域に生まれた人々の真似を、日本で生まれ育った私達がしてみても、それは無理があります。彼らは幼い頃からその固有の食生活の中で有効なポリフェノールを摂取し、老齢を迎えます。中年を過ぎた日本人がその食生活の真似をしては、返って身体を壊してしまうかもしれません。
 少量を毎日摂取する事で、体内に蓄積しその機能を有効にするのだとすれば、私達日本人が摂取しやすい食品から見つけ出す事の方が理にかなっています。まさしく地産地消の身近な食品を大事に食べ続けて肉体も脳も健康を維持する智慧が必要なのです。同じ食品であっても、輸入農産物よりも日本の固有種の農産物の方が私達の身体に馴染んでいるであろうことは容易に想像できます。
 また、認知症の予防、改善のためにはこれひとつでオッケー、のような簡単な解決策はありません。ご紹介した様々な物質の中には、抗酸化作用があり、代謝を良くし、血流を促進し、あるいはアミロイドβを分解し、アセチルコリンエステラーゼ活性を阻害し、タウ蛋白質を酸化から守る、といった成果が証明されていますが、これらはあくまで健康な食生活と運動と学習の継続に付加すべきものです。健康な生活習慣をおくる一人ひとりに「更に追加する」「アシストする」「応援する」ものです。暴飲暴食の自堕落な生活の人を、あるいは栄養失調気味の方の健康を、運動もしない学習もしない、つまりバランスの悪い食生活や脳を含めた身体への刺激をおろそかにする人の認知症発生を予防することはできません。
 独り住まいの高齢者の食生活は、肉類を避けるケースが多いようです。代謝が衰え、食欲が落ちれば、何から減らすでしょうか。お米を炊くけれど肉や魚を食べる頻度や量は激減し、野菜を煮炊きしたものや漬け物などですましてしまう事が増えるようです。しかし、この食生活では必要なビタミンやミネラルの補給は難しくなってきます。脳の健康体操などに参加しても栄養不足では内側から脳(に限らず身体も)は衰えてきます。「年寄りだからあまり食べなくてもいいのよ」と仰る老人はよくおられますが、たくさん食べなくてもいいから、必要な栄養素をきちんと摂取する栄養指導が必要なのです。
 若い家族と同居していれば、必然的に同じおかずを食べる機会が生まれます。多少でも肉や魚を食べるでしょう。同居人がいなければ、若い人と食事に出かける機会を作り、同じものを少しでも食べる事です。そこには楽しい会話も生まれ、刺激も受けるでしょう。
 まず、規則正しい生活習慣、栄養に配慮した食生活、他者との関わりを持ち続ける社会性の維持、並べて言葉にすると子供向けの「夏休みの約束」のようです。しかし、高齢になるにつれてこれらが疎かになりがちです。ひとり一人の努力に付加されるオプションとして、更に有効な食品を複数摂取する事が大切な視点だと思います。