認知症基礎講座

 2012年からセミナーを開催し、回を重ねるごとにお伝えしたい内容は増えてきました。しかし、お聞きいただく時間は限られています。早口で話す訳もいかず、時間内に収める為には何かを割愛します。その結果、毎回話しきれなかった後悔が残るのですが、それはしかたないのでしょう。その代わり(でもありませんが)無料でダウンロードできるPDF冊子(現在改訂中)と安価のKindle版電子書籍を用意しました、どうぞご覧ください。……と言っても、3冊読むのは時間がかかるし環境的に難しい方もおられるでしょう。そこで、すぐわかる(かもしれない)用語解説を作る事にしました。お役に立てばいいなあ……程度の気持ちでぼちぼち追加していきます。では、どうぞ。
 そして、生理学の専門的内容を噛み砕いたものを「なんちゃって生理学講座」としてまとめ始めています。ついでにどうぞ。

アセチルコリン

認知機能に関与する神経伝達物質のひとつ →神経伝達物質

アミロイドβ

脳神経細胞を死滅させる原因ではないかと言われている →治療可能な認知症

あなたも認知症かも

あなたも認知症状態になることがあります。それは「寝起き、夢うつつ、車酔い、酒酔い」の時です。平時なら苦もなく適切な判断ができるのに、それができない時がありますね。酔っぱらって乗るべき電車に乗らずに、他所に行ってしまった経験はありませんか。はい、その時あなたは認知症状態になっていました。よかったですね、回復できて。

オキシトシン

出産時に子宮を収縮させ、母乳を出しやすくするホルモン。愛情や共感を促進し優しい気持ちを持たせる愛情ホルモン。 →なんちゃって生理学講座

軽度認知障害

軽度認知障害はMCIMild Cognitive Impairment)と呼ばれます。
認知症は一般的に次の五つが弱くなりますが、
記憶
注意能力
・視空間能力
・言語 見当識
・推論
この中の記憶だけが弱いのが軽度認知障害です。
→FAB


健康なもの忘れと認知症のもの忘れ

健康なもの忘れは、忘れている自覚があります。前後関係は覚えていますので、思い出そうと努力して、ヒントが与えられれば思い出します。一方の認知症のもの忘れは体験全体を忘れてしまうのでヒントがあっても思い出せません。更に忘れている自覚がありませんから、忘れていることを責められると、不機嫌になります。

 認知症の典型的な短期記憶障害
・財布を繰り返し捜す
・同じ話題を繰り返し話す
・待つことができない
・一部の家族の顔がわからない
ということが上げられます。
認知症はいわゆる「物忘れ」はありますが、「痛み」とか「痒み」といったような自覚症状がありません。また、誰でもプライドがあり自分は大丈夫、認知症と認めたくない、家族の方も世間体が悪いという思いがあります。そのため、かなり進行した認知症でないと病院を訪れないため、早期認知症は発見しにくいというのが現状の課題です。

シナプス活動

人の脳内には100億から180億個の神経細胞があると言われています。この脳神経細胞は20代にピークを迎え、その後は加齢にともなって死滅の一途をたどり、60歳を過ぎると急速に死滅速度が上がります。一方で、脳神経細胞内ではシナプスが常に生まれ、記憶と伝達の役割を担います。シナプスの産生は年齢に関係なく、60歳を超え90歳になっても努力次第で増え続けます。

 このシナプスの数(数百から十万個)と働き具合が脳と身体の働きを大きく左右します。ある情報が神経細胞に入力されると、情報は電気信号に変換され、神経細胞の細胞体から軸索(細胞体から延びる突起部分)へと伝えられます。
軸索の先端は、他の神経細胞に情報を送る働きをします。この接続部分がシナプスです。この軸索のシナプス結合部はややふくらんでおり、シナプス前終末と呼ばれます。しかし、シナプスには図のように隙間(シナプス間隙)があり、電気信号のままでは情報を送る事ができません。
 そこで、シナプスでは電気信号を化学物質の信号に変え、それを伝令役として、次の神経細胞に情報を伝達します。その伝令役となりシナプス前終末から放出されるのが神経伝達物質です。この神経伝達物質が、次の神経細胞の細胞膜にある受容体に結合すると、新たな電気信号が生じて情報が伝達されるのです。
 このように、シナプスの役目は神経細胞間で情報を橋渡しすることですが、シナプスの働きが悪いと、脳は正常に機能しません。シナプスの数(働き)と認知機能が比例する(頭の働きが良い悪い)と言われる理由です。

 加齢にともなって誰でもシナプスの数が減少し、それがひどくなるともの忘れの原因になりますが、シナプスでの情報伝達の効率を上げれば、認知機能は高まるのです。その鍵を握るのが五感を通じた脳への刺激と神経伝達物質です。


神経伝達物質

脳内で大きな働きを担う神経伝達物質は知性と心の安定と運動性能も左右する非常に重要なものです。現在、五十種類以上存在すると言われていますが、その働きが比較的よくわかっているものはわずか二十種類程度です。それほど脳の研究は途上にあると言う事です。
 代表的な興奮性神経伝達物質としてグルタミン酸、アセチルコリン、セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリン、一方で抑制性神経伝達物質としてγアミノ酪酸 (GABA)、グリシンがあります。

 この「神経伝達物質と結合(受容体反応)」→「シナプス内に電気信号を送る」という働きは脳内で常にやり取りされていますが、このおびただしい「結合と送信」こそが、香川真司選手に目の覚めるゴールをイメージさせ、イチロー選手の最高のプレーを支え、北島選手の世界記録を生みだしているのです。もちろん、私やあなたの日常の活動を支えている事は言うまでもありません。


生活習慣

認知症になりやすい生活習慣は次の五つです。

1.過度の飲酒
 過度の飲酒は脳の萎縮(脳神経細胞の死)を引き起こします。1日あたり1合程度であれば有意な差はありませんが、毎日2合以上飲み続ける方は、脳の萎縮が始まっています。毎日2合の飲酒者は10歳年上の非飲酒者と同程度に脳萎縮していることが明らかになっています。つまり脳が10歳早く老化する、という事なのです。特にアルコール依存症者は脳の萎縮の進行が早く、より認知症になりやすいと言えます。

△適量なアルコール量とは20グラム/日です。
この量は日本酒1合、ビールは500ml、25度の焼酎100ml、ワイン240ml、40度ウイスキー60mlくらいで、この量であれば毎日楽しんでも健康に害はありません。(一般的な成人)


2.過度の喫煙
 喫煙者の脳卒中(脳内出血と脳梗塞を合わせたもの)危険率は非喫煙者の1.5倍ですので、脳血管性認知症の危険性が高い事は当然です。また、全ての認知症で1.47倍、アルツハイマー病を含めた認知症発症率が1.56倍と、非喫煙者よりも発症率の高さは明らかです。

3.高血圧症
 高血圧は、血管性認知症の原因と成る多発性脳梗塞や脳内出血を引き起こす最も大きな危険因子です。

4.糖尿病
 ロッテルダム(オランダ)研究(6370名を対象に2年間追跡調査)で、糖尿病群では非糖尿病群と比較してアルツハイマー病発症率が2倍高く、糖尿病でインスリン治療群では非糖尿病群と比較してその発症率が4倍高かったという結果が得られています。また、国内の久山町研究(826名を対象に15年間の前向き調査)で、糖尿病および糖尿病予備群の人はその対照群を比較して、脳血管性認知症ならびにアルツハイマー型認知症の発症率がそれぞれ2.5倍、3.0倍起こりやすかったと結論づけています。
 最近、インスリンを分解する酵素(インスリン分解酵素)が、アルツハイマー病の原因物質と考えられているアミロイドbも分解することがわかってきました。2型糖尿病で血液中のインスリン濃度が高いとインスリン分解酵素がインスリン分解だけに働き、アミロイドbを分解することができません。そのため、脳にアミロイドbが蓄積しアルツハイマー病を引き起こすといわれています。

5.一人暮らし(孤独感)
 ストックホルム(スウェーデンの首都)在住の75歳以上の高齢者1,203名を対象に3年間行った調査で、独身・独居・子なし・友人なしと社会的接触が乏しい群は、結婚・同居人あり・子どもが毎週会いに来る・友人多数の群に比べて認知症発症率は8倍高かったと報告されています。総務省が2011年6月29日に発表した国勢調査の結果によれば、我国の一人暮らし世帯は1,588万5千世帯で一般世帯の31.2%と初めて3割を超え、「夫婦と子供」で構成される世帯を抜いて最も多い世帯構成となりました。そして、65歳以上では男性の10人に1人、女性の5人に1人が一人暮らしであるという状況が浮き彫りとなりました。
「無縁社会」とも揶揄される現代の高齢者を取り巻く問題の解決には、「地域コミュニティ」の活性化が不可欠だと思われます。そして、孤独に過ごさず話し相手を持って生き生きと過ごすことは、認知症予防改善という面においてとても重要な鍵だと思います。(関連「愛情ホルモン オキシトシン」


中核症状と周辺症状

認知症の症状は大きく分けてふたつあります。
 ひとつは中核症状と呼ばれる認知障害(記憶障害、判断力障害、実行機能障害、見当識障害、失行、失認、失語の障害など)で、ふたつ目は周辺症状(暴言、暴力、徘徊、不潔行為など)と呼ばれる問題行動です。
 特にこの周辺症状が激しくなると自宅介護が困難になり、一般の医療機関でも対応ができず、精神科病院に入院し薬物療法や隔離、身体拘束の結果、家族からも孤立して、やがて長期療養可能な病院に転院し、最期を迎える、という酷い経路を辿ることがありました。
 一方で、周辺症状が軽く(目立たず)中核症状だけに見える場合も多く、辛うじて日常生活を送り続ける認知症患者は珍しくありません。一見、特に変わりなく、生活を送っているように見えますが、会話をすると同じ事を繰り返していたり、何度も繰り返し探し物をしていたり、着衣が季節外れだったり、自宅が片付かぬままゴミが放置されているなど、注意して観察すれば判別はつきます。しかし、その状態がその方の一時的な不調が原因なのか、認知症の為なのかは、時間をかけて観察しなければ判断はつきにくい事が多いようです。
 毎日自転車で出かけて買い物をし、食事をして、朗らかに会話をできる方が、実は認知症だったと言う事があります。自宅を訪問して話し込んで初めて気づくような認知症者はおられるのです。でも、そのように日常生活を過ごせるのであれば、それはそれで良い事なのです。大切なのは家族やご近所の方がその事を理解して接して上げる事です。コミュニティのサポートで認知症者が事故や怪我に遭わないような気配りが求められます。

 アルツハイマー型認知症の代表的な症状が理解力の低下です。人や周囲の状況、時間、場所など自分自身が置かれている状況などを正しく認識できない状態(見当識障害)になります。激しい物忘れ(記憶障害)もありますが、理解力が低下するため自分の変調に気づきません。ここが単なる物忘れとは異なります。
 徐々に進行して、生活に支障が出はじめます。重症度が増すと摂食や着替え、意思疎通などが困難になり、最終的には寝たきりになります。症状経過の途中で、被害妄想(物とられ妄想)や幻覚(とくに幻視)が出現する場合もあります。暴言・暴力・徘徊・不潔行為などの問題行動(いわゆる周辺症状)が見られることもあり、介護上大きな困難を伴うため、この段階で医療機関を受診するの最大の契機となります。本来は、認知症の疑いに気づいた時に受診する事が望ましいのですが、現実は気づかぬまま進行してしまうケースがとても多く、認知症患者急増の社会問題となっています。




治療可能な認知症

手術で治療可能な認知症
 正常圧水頭症は脳室(脳脊髄液を貯めている部屋)に脳脊髄液が大量に溜まり、脳を圧迫することにより「認知症」、「歩行障害」、「尿失禁」等の症状が出現します。脳室に溜まった脳脊髄液を別の場所に流す手術(脳室―腹腔シャント術、腰椎―腹腔シャント術)によって「認知症」を含めた症状が改善する可能性があります。
 慢性硬膜下血腫は軽微な頭部外傷後、数ヶ月して頭蓋内の硬膜(脳を覆う硬い膜)と脳の間に血が溜まる疾患で、「認知症」の原因にもなります。局所麻酔下(覚醒したままの麻酔)で頭蓋骨に直径1cm位の穴を空け、その穴を通して溜まった血腫を吸引除去する手術で、術後劇的な症状の改善が見込まれます。

 アルツハイマー型認知症の人の脳内では、共通してアセチルコリンの量が減少しています。アセチルコリンは認知機能に深く関わる神経伝達物質の一つで、脳内のアセチルコリンの相対的減少がアルツハイマー病と関連があるとされています。ではどうしてアセチルコリンが減少しているのか。実はその理由がよくわかっていません。
 アルツハイマー型認知症の特徴の多くは明らかとなっていますが、何が主要な原因なのかという問題については、複数の仮説が共存しているのが現状です。それでも、アミロイドβの脳内蓄積が重要な因子であると考えられています。アミロイドβの脳内蓄積により脳神経細胞は急速に死滅(脳の萎縮)していくからです。(ただし、これは前後関係で推測されているだけで、因果関係を証明する報告はありません。)しかし、アルツハイマー病の脳神経細胞死を抑える治療薬はまだ開発されていません。

認知症に至るサイン

認知症に至るサインは生活習慣の変化にあります。例えば、ゴミの分別をしなくなる、ゴミを出す曜日を間違える、料理を作らなくなる、趣味の集まりを欠席する、外出を嫌がる、服装がだらしなくなる、掃除片付けをしなくなる、怒りっぽくなる、ぼんやり過ごす時間が多い、などです。

 一度くらいなら、誰にでもあることと見過ごすサインですが、繰り返していれば、できるだけ早く医療機関で受診してもらいましょう。ただし、この時期は受診することも嫌がりますから、無理強いは逆効果になりかねません。きっかけを見つけて医師の診察を受けるようにしてください。


認知症は病気ですか

認知症とは頭痛や腹痛や腰痛と同じ症状の呼び名で、病名ではありません。
 認知症=アルツハイマー病とお思いの方が沢山いらっしゃると思いますが、これは間違いでアルツハイマー病は認知症を引き起こす原因疾患の一つに過ぎません。
 脳卒中や正常圧水頭症を原因とする認知症は外科手術によって治療可能ですが、これらは認知症全体のわずか二割程度です。それ以外の認知症のほとんどをアルツハイマー型認知症が占め、レビー小体型認知症と前頭側頭型認知症を含めて七割以上になっています。そしてこれらの認知症が根本的な治療方法を見つけられないまま現在に至っています。







認知症者の出現率

65歳以上の高齢者を5歳刻みで統計を取ったところ、認知症者の出現率は倍増を繰り返している事がわかりました。グラフは平成4年に発表されたものですが、何もしなければ、この速さで認知症者は増加します。認知症になる前に、予防することが最も重要なことがおわかりいただけるでしょう。












脳の構造

脳とは、どうすれば生命を維持し子孫を残せるか、そのために外部からの入力にどう出力するかの最適解を準備するために、情報を保存し全身に指令を送る部位だと定義できます。
 一時的に記憶された情報は、何度も記憶が再生されるうちに、神経細胞同士のつながりが強くなり、知識として長期記憶に刻まれていきます。そこに至るまで、記憶は短期記憶として前頭前野の大脳皮質に保存されます。その短期記憶は「ワーキングメモリー」と呼ばれ、これがアタマの良さの鍵を握っているのです。
 このワーキングメモリーへの書き込みと書き足しを繰り返し行うと、海馬は「この情報は重要だから長期記憶に保管しよう」とし、記憶は知識として定着し蓄積されます。
 さて、記憶とは、学習した(脳に刺激が入ってきた)時に、その刺激を脳の中に残しておく現象のことです。人間の記憶は頭頂連合野、側頭連合野、後頭葉に保存されています。大脳皮質(大脳半球外側の表面部の灰色の層=灰白質)の後方にある頭頂連合野、側頭連合野、後頭葉に情報が来たら、次回以降も同じ情報が伝わりやすいようにと特定のシナプスの繋がりを残しておく。これが記憶のリアルな姿です。”

抜粋:: 神垣忠幸. “認知症になりたくないあなたに 認知機能リハビリのすすめ” 

徘徊の背景

動機は
  1. 昔のお家に帰りたい(何故だか長居しちゃいました、おいとまします)
  2. かつての習慣(通勤など)
  3. 身体の不調(便秘で苦しいなどの理由でうろうろするが言葉にできない)

心と脳は
  1. 方向感覚の悪化 遠くの目印と自宅の地理関係がわからなくなる
  2. 不安、記憶違い いったん歩き出すと、知らない人、町並み、風景ばかりが見えるので不安になる
  3. 判断力の低下 自宅に電話するなどの判断ができなくなっている


FAB(前頭葉機能検査)

ファブと読み、短期記憶のみを審査しMCI(軽度認知障害)を診断する口頭試問ツール。ダウンロードはこちらから。


不飽和脂肪酸

不飽和脂肪酸を経口摂取しても脳に到達しない!
 昔、日本人の子供が海外の子供と比べて算数がよくできるのは、『魚をよく食べるからだ』といわれていたことがあります。不飽和脂肪酸の一つであるドコサヘキサエン酸(DHA)は、魚、特に魚の目玉に多く含まれています。別項でも書きましたが、不飽和脂肪酸は神経伝達物質の放出を増加させる作用があり、このことから『魚を食べると頭が良くなる』という説には一理あります。しかし、DHAやアラキドン酸を含めた不飽和脂肪酸は、いくら経口摂取しても体内ですぐに分解されたり、脂肪細胞や骨格筋細胞に吸着されてほとんど脳に到達しません。すなわち、不飽和脂肪酸をいくら経口摂取しても脳での働き(「頭を良くする」)は期待できないということです。最近の研究でも、アルツハイマー病患者にDHAを補充しても認知機能の低下を防ぐことができないことが明らかになっています。
 一方、ホスファチジルコリンはその構造内に不飽和脂肪酸を含み、代謝されて始めて不飽和脂肪酸ができます。つまり、血液脳関門をくぐり抜け、脳内で代謝される
ホスファチジルコリンを摂取すれば、脳内で不飽和脂肪酸が産生されるため、脳内で不飽和脂肪酸がその効果を発揮できます。この点で、不飽和脂肪酸そのものを経口摂取するのとは大きな違いがあります。(←ココが重要!)